「かわいい」の考古学 と 愛され上手なカエルたち他


前回のエントリにて、鳥山明氏の『Dr.スランプ』作品における、デフォルメと1本の線にたくさんの意味をこめて描写することにより生まれる、そのあか抜けて「かわいい」キャラクター造形について触れましたが、エントリを書いた後に、昨年に行った六本木の21_21 DESIGN SIGHT「野生展」にて、『かわいい考古学』というフレーズとその展示内容があったことを思い出しました。

幸いにも公式HPと展覧会レポートが公開されていたので、こちらに引用・転載させていただきつつ、その深い含蓄を僭越ながらアーカイブさせてもらいました。

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「かわいい」の考古学:野生の化身たち

古くは1万6000年前に遡るとされる縄文土器から今日まで、人間はさまざまなかたちで「野生の依り代」を生み出してきました。心の内からわきあがる形は信仰の対象に留まることなく、道具や娯楽の対象としても広がりを見せてきたのです。ここでは私たちの身近に存在してきた野生の化身を紹介します。それは「かわいい」化身です。日本人は縄文の時代から、自然と人間の中間にいる存在たちを「かわいい」造形にする特異な才能を持っていました。その能力はいまも衰えていません。

 

 

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ギャラリー2のスペースには、見慣れたキャラクター、ハローキティケロちゃんコロちゃんが。

どうして?と思うかもしれませんが、実はこれらの「かわいい」も野生の表現のひとつ。意外ですよね。日本人は縄文時代から現代に至るまで、自然と人間の中間にいる存在を「かわいい」造形にする特異な才能を発揮してきた人々なのだそうです。

特にカエルは、陸と水中を、生と死(冬眠)を、行き来する魔術的な生き物として取りあげられ、京都の栂尾山 高山寺に伝わる「鳥獣人物戯画」でもその姿が幾度も登場しています。動物を擬人化したこの作品は、昔の日本人による、自然と文化の懸け橋と言っても過言ではないでしょう。

 

なんと強烈な考察でしょうか。

古代からの信仰心をあらわす「野生の依り代」の一形態として、日本人は「かわいい」形態に、特異な才能を発揮して部族 だったとは!

これはとても個人的な解釈ではありますが、これは「特異な才能」というよりかは、「特異な嗜好」と言う方がより正しい気がしています。

縄文〜弥生あたり、土を素焼きして造形物が作れる技術が伝来したぐらいの時代の、土偶や埴輪のバリエーションをGoogle検索してみると、それこそアフリカの伝統的な力強い原始のニュアンスを含んだ人面や人物像と同じ様なものが、たくさんあることが見て取れます。

なので、まだ文明が始まり出した頃で、野生味が強い人間の感性のスタート地点は、日本も他の大陸も、大差がなかった様に思えます。

しかし、その後の歴史の要所要所で「かわいいもの」をとくに嗜好して残してきた、という特性が日本人にはあるような気がします。

それこそ、やや偏見めいているかもしれないが、日本人自体(広く言えばポリネシア系〜モンゴロイド系)に「かわいい顔立ち」というか「童顔」の人が多いので、そういった顔相への嗜好性のもと、世代を重ねてきた可能性がありそうでもあります。

それ故に「かわいいもの」には目がない文化体系の民族になった、日本人の美意識は「かわいい方向」に引っ張られて蓄積してきた、と論じてもそれなりに通じてしまう気がする、このなんちゃって文化人類学的推論です。

もちろん日本文化にも複数の系統があって、歴史の教科書でも習う 侘び・寂び・幽玄 や、茶道・歌舞伎・雅楽 といった大人な洗練もあっての別系統での「かわいい・萌え」の文化があるのだと思います。全てでは無くあくまで一部ではあると思いますが、それでも他国に比べると極めて高いサンプル数で「かわいいもの」が歴史上のアーティファクトとして遺っている・現代人の感性の中に生きていることは、間違いなさそうな気がしている。

 
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そして、「カエルを魔術的な生き物として捉えていた」というのは、画期的というかあらためてハッとさせられたポイントでした。(よく見たら展覧会ポスターに描かれている黒い生き物もカエル風)

たしかにカエル関連で日本人が作りだしたものを探すと、探しただけ出てくる。

以下、ざっとその列挙です。

・解説にもあげられていた、日本最古の漫画であり国宝でもある「鳥獣人物戯画」に主役として登場

・ブラックジョークも利いた現代版の「鳥獣戯画」(小さく話題のフリー素材提供サイト)でも大活躍

・あの伊藤若冲もじつはカエル好きでたくさん描いている

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 絵画の中の蛙 若冲のカエル①「菜蟲譜」 : caeru blog カエルのおへそ

・漫画『ジョジョの奇妙な冒険』にもカエルの不思議な描写が多数
 - あのメメタァのシーンで殴られても死なない生物はカエル
 - ドッピオが電話機代わりに使うアイテムの一つがカエル
 - ウェザーリポートが降らせる物体の一つにもカエル

 

そして鳥山画風のキャラクターが時間が経過してもまったく古びないのと同様に、調べてみるとケロちゃんコロちゃん(製薬企業のコーワのキャラクター)が、すでに誕生から60年近く立っていても、いまだ「かわいい」存在感を放っているのにも驚きです。

コーワのケロコロランド♪|ケロコロヒストリー

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さらに似たようなカエルキャラたちはまだまだ日本にはいます。

いったいどれだけ愛され上手なんだ、君たちは!

ケロタンとガーコ(コナミのキャラクター)

みうらじゅん氏の自画像キャラとしての「ホワッツ・マイケル富岡」

ケロロ軍曹ど根性ガエルぴょん吉、ケロッピーなどほか多数
 色々なカエルキャラまとめ - NAVER まとめ   

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さて、カエルキャラの勢いがありすぎて、取り留めがなくなってきましたが、ここで本日のパンチライン。“野生” つながりで、アレキサンダー・マックイーン について引用しておきます。

彼の過去の展覧会では、 "Wild" ではなく“Savege” を謳っている分、表現がだいぶ難解です!(展覧会の原題が Savage Beauty )  むしろ日本の「かわいい」からは正反対の対極に位置するくらいの美意識かもしれません。

“狂気をはらんだ美しさ” が、彼の表現したかった方向性だったようです。

 


時系列をコンテンポラリーに限っての目線ではありますが、ダミアン・ハーストバンクシー もしかりで、イギリス人のアーティスト気質として、ややグロテスク&ダークといったネガティブ系な位相の中に、美を見出した人が評価される傾向がありそうです。マックイーン氏の美意識も同じく、日本人の感覚からはそうとうに遠い位置にあるので、個人的には正直、共感はしずらいです。。

しかし、まあ、世界のアートの本拠地であるロンドン芸術も幅広であり、観る側・評価する側も多様性を受け入れる素地がしっかりしている裏返しなのかなとも思いました。

ステレオタイプな通説で行けば、紳士の国だけど、皮肉好きでけっこう根暗気質。年中曇りが多くて天気も悪くなりがちだし、食事事情についてもながらく悪名が轟いていた(…という時代が長かった)。なんちゃって文化人類学かじりとしては、その環境が、美意識や嗜好に及ぼしている影響はヒジョーに強いものと見ています。


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さて、最後の締めは、行くところまで行っての「キャラもの」対決。

各国の “キャラものに対する国民意識” の違いは、オリンピックのマスコットキャラクターに最も現れていました。

往年のオリンピックのマスコットたちが時系列順に並ぶとこんな感じ↓

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あれ?ロンドン?


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うーん、際立っています!陰の異彩のオーラを放っています!

名前は「鉄骨のしずくのウェンロックとマンデビル」だそうです。

やっぱり英国の方々は、ややネガ系 に嗜好がおありのようです(笑)

 

なおロンドンオリンピックの全体の写真集がこちらのサイトに美しく納められていますので、是非その中でウェンロックマンデビルを見つけてみてください!

ロンドンオリンピック特集・最新情報

 

なお、東京2020はこちらに落ち着いたようです。

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まあ、賛否両論だったみたいですが、どれを選んでも「かわいい」路線からは外れないのが日本のお国柄ですかね!結果はどれもかわいいーんじゃない!?

 

本日はこのへんで!

 

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