【書籍紹介】『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』・『アートは資本主義の行方を予言する』

ゾゾタウン前澤氏がバスキアを63億123億で買ったという事実が、ちょっとしたニュースになっていますが、「アート」という言葉に対して自信を持って定義やら確固たる持論やらを語れる人が、この日本ではだいぶん少数派だなと個人的に思ってしまっている昨今。わたしの実体験ベースで読んでおいたら、「アート」と「ビジネス」の関係性への捉え方の解像度がずいぶんあがった!、と思われた本を2つ今回はご紹介します。

 

世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?
(2017年・山口周)

 

発売当初から本屋では平積みされ、アマゾンのコメント欄でもベタ褒めのコメントが並んでいる通り、この本に出会えておいて良かった!と思うことができる、かなりの良書です。

本が出てからもうすぐ1年になりますが、まさに「時代の主役が変わるタイミング」、「論理と経済性」から「感性・美・倫理規範」にパラダイムが移りつつある端境期がいまのいまに来ていること、が文中では明快に語られています。
(同様の洞察は前エントリでの水野学さんの2014年の著書内でも述べられています
⇒「企業の美意識やセンスが企業価値になる。これが今の時代の特徴です」)

なおかつ、各論点の合間では筆者の主張を絶妙に補うセリフ・名言がこれまた非常に “センス良く” 引用されていて、書き手の山口さんの編集力の高さに感服したことをよく覚えています。

本ブログに、引用&アーカイブさせて貰いたい箇所は本当にたくさんあって悩ましかったのですが、厳選してあえて3ヶ所を選び出すとしたら、次の部分が最も示唆に富んでいたように思います。


・「直感」はいいが「非論理的」はダメ
結果的に大きな業績の向上につながった「優れた意思決定」の多くが、直感や感性によって主導されていたという事実によって私が伝えようとしているのは、決して「論理や理性をないがしろにしていい」ということではなく、「論理や理性を最大限に用いても、はっきりしない問題については、意思決定のモードを使い分ける必要がある」ということです。

/中略/  過去の経営史を紐解いてみれば、優れた意思決定の多くは、論理的に説明できないことが多い。つまり、これは「非論理的」なのではなく、「超論理的」だということです。一方で、過去の失敗事例を紐解いてみると、その多くは論理的に説明できることが多い。

つまり「論理を踏み外した先に、いくら直感や感性を駆動しても、勝利はない」ということです。/中略/ 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」(松浦静山/中略/  経営の意思決定においては「論理」も「直感」も、高い次元で活用すべきモードであり、両者のうちの一方が、片方に対して劣後するという考え方は危険だという認識の上で、現在の企業運営は、その軸足が「論理」に偏りすぎているというのが、筆者の問題提起だと考えてもらえればと思います。

・ミンツバーグによるMBA教育批判
ミンツバーグによれば、経営というものは「アート」と「サイエンス」と「クラフト」の混ざり合ったものになります。「アート」は、組織の創造性を後押しし、社会の展望を直感し、ステークスホールダーをワクワクさせるようなビジョンを生み出します。「サイエンス」は、体系的な分析や評価を通じて、「アート」が生み出した予想やビジョンに、現実的な裏付けを与えます。そして「クラフト」は、地に足のついた経験や知識を元に、「アート」が生み出したビジョンを現実化するための実行力を生み出していきます。

・経営者はなぜデザイナーに相談するのか?
経営者に外部からアドバイスする仕事と聞けば、一般的には経営コンサルタントをまず想起する人が多いと思います。しかし今日、多くの企業経営者は、コンサルタントではなく、デザイナーやクリエイターを相談相手に起用しています。デザインと経営というと、その接点はロゴマークやプロダクトデザインといった領域にしかないように思われるかもしれません。しかし、私は「デザイン」と「経営」には、本質的な共通点があると思っています。/中略/ 一言で言えば「エッセンスをすくいとって、後は切り捨てる」ということです。そのエッセンスを視覚的に表現すればデザインになり、そのエッセンスを文章で表現すればコピーになり、そのエッセンスを経営の文脈で表現すればビジョンや戦略ということになります。結果として出来上がる成果物の呼称は異なりますが、知的生産の過程で用いる思考の仕方はとてもよく似ているんですね。デザイナーやクリエイターは、自分がデザインやコピーで表現するエッセンスを磨き上げていくのと同じ思考プロセスを用いながら、経営者と対話し、その企業における戦略やビジョンを磨きあげているわけです。


 <ほか面白くておすすめしたい項>

・全てのビジネスはファッションビジネス化する
・デザイン思考
・デザインとテクノロジーはコピーできる
・エリートを犯罪から守るための「美意識」
・世界のエリートは「どうやって」美意識を鍛えているのか?
・哲学を鍛えられていた欧州エリート
・哲学に親しむ
・知的反逆

 ※掲出順番は内容で寄せて適宜入れ替えています
 


じつは、当ブログのタイトルにも入っている「ART & SCIENCE」という言葉のルーツとして、この本から大なり小なりのインスピレーションを頂いています。もちろん世の中には著名スタイリストのソニア・パークさんが手掛けているブランドショップとしての「ART & SCIENCE」が既にあることも知っていましたし、その他にも「領域横断的」に、そして「メタ的」に、アートとサイエンスの両軸の重要性を説く意見を見聞きする頻度がいつのまにか増えて来ているような気がして、この言葉ならば時代の機微に触れるような言葉としていちばん相応しそうだ、と思ったのです。

はてさて、この御本は本当に完成度・練度ともに高い一冊だと思いますし、AIとかブロックチェーンとか流行のハイテックなテクノロジーワードに飛びつく前に、ぜひ広く多くの人に読まれた方が良い書物だなーと思います。

むしろクリエイティブ畑や制作関係じゃない人こそ、教養として修めておいて損が無いのでは無いんじゃないかと思います。

その理由は本書の中で再三、語られていますが、
いまや時代は アートとサイエンス で ビジネスが回っていく時代 になって来ているのですから!

 

さて、ここからはおまけのコーナーです。

実は数年前に漫画「へうげもの」を読み始めてから茶道への興味が深くスイッチオンされ、連休期間には過去の NHK大河ドラマ の一気観をする日々の趣味とも相まって、すっかり歴史好きにな私としては、下記の引用内容でテンションが上がってしまって、「山口さん分かっていらっしゃるっ!!」と個人的に躍起しましたので、これまたリスペクトを込めて千利休について言及されていたパートも、ここに引用させて頂きます。


【おまけ①】

千利休は最初のチーフクリエイティブオフィサー
私は、千利休を、世界最初のクリエイティブディレクターだと考えています。というのも、千利休という人は、歴史上ではじめての「ディレクションはするけど、クラフトはしない人」だったからです。洋の東西を問わず、美的なものを生み出した人物のほとんどは、彼ら自身が創作者であり、制作者でした。例えばミケランジェロピカソは言うまでもなく、芸術家というよりもプロデューサーであったと言われる慶派の運慶や快慶も、彫刻家として高い技能を持った上で、多くの職人を束ねていました。ところが千利休という人はそうではない。今日、利休が制作に関わったとされる物品は数多く残っていますが、そのうち、利休が手ずから制作したものは、茶杓や花入くらいしかありません。茶室や庭はもちろんのこと、茶道具である風炉と釜、水差や炭斗、棗や茶入れ、そして茶碗などについては、利休は職人に、コンセプトを伝えて制作してもらう立場、つまりクリエイティブディレクターの立場に徹しています。

/中略/ 利休は、言ってみればCEOに該当する織田信長豊臣秀吉に対して、彼らが支配する社会の美的側面についての領域を担う担当者、いわばチーフクリエイティブオフィサーの役割を担ったと言えます。信長や秀吉は、自らの権力のもとに利休を保護することで、利休の才能を自らが支配する社会の文化に反映させ、影響力を高めようとしました。

/中略/ 利休のすごいところは「侘び」という極めて抽象度の高い美的感覚を、一般には芸術メディアとは考えられていなかった茶室や茶碗などの具体的な道具に落とし込んでいったことです。/中略/ 侘び茶という美意識をコンセプトの中心において、そこからブレることなく、建築や茶道具のみならず、書画や、果ては植物や庭などにも拡げながら、これらをプロデュースしている。凡百なアーティストがこんなことをすれば、無残な結果は目に見えているわけですが、利休の場合むしろ、その範囲を拡げれば拡げるほど、世界観やコンセプトの芯が明確に浮かび上がってくる。正統なアーティストとしての訓練を受けていない人がこんなことをやってのけているわけで、これはちょっと世界的にも類例がないように思います。こういった才能を持った人物を、信長や秀吉は、いわばスポンサーとしと支え、もう一方ではクラフトを担う職人が支えました。

 


なんて素晴らしい解説・洞察でしょうか。

マルセル・デュシャンが、世界のアート史を モダン(近代) から コンテンポラリー(現代) に切り替える転換点を作ったと言われていますが、千利休もまた日本美術史の中の大きな転換点を作った男だったことは、ぜひ歴史の教科書で広く日本人である全ての人にきちっと周知・解説するべき!と私は勝手に常々思っています。(書き進めると長くなるのでこのへんで止めておきます)

そして、おまけその②です。

良書に出会うと、なぜ良い本だったかを読後にじんわり考えてみるようにしています。(それこそ新しいiPhoneが出たらすぐに分解してリバースエンジニアリングするまとめサイトような気持ちです!)

この本は、読むのに夢中にさせるテンポの良さとネタの豊富さ、視点・視座の独創性、選択されている言葉の切れ味、、、等々、褒めちぎるのはたやすいのですが、一つはっと気付いた点としては「引用により登場した人物がとても多かった」ということだと思います。

なので、実際にページを捲り直してすべての人物名をリストアップしてみました!なかなかに骨の折れる作業となりましたが、以下がその結果です。

 【おまけ②】
本書内で引用されていた人物一覧
(*は本人の言葉が強調フォントで引用されている人物)

・ロバート・ウィリアム・フォーゲル(ノーベル経済学賞受賞者、アメリカの経済学者)
・エイブラハム・マズローアメリカの心理学者)
ジャン・ボードリヤール(フランス思想家)
・ピーター・ドラッガーユダヤオーストリア経営学者、「マネジメント」 の発明者)
エドワーズ・デミング(アメリカの統計学者)
イマヌエル・カント(旧プロイセン王国の哲学者)
ヨーゼフ・ボイス(ドイツの現代美術家、アーティスト)
・井深 勝(SONY創業経営者)
・盛田 昭夫(SONY創業経営者)
スティーブ・ジョブスApple創業経営者)
・松浦 静山(江戸時代の武芸家)
・野村 克也(プロ野球監督)
・ピーター・センゲ(MIT教授、組織論の権威)
*アンリ・ポアンカレ(フランスの数学者)
・トマス・ホッブス(『リヴァイアサン』著者、旧イングランドの哲学者)
ジョージ・ストーク・ジュニア(80年代米国BCGパートナー)
・ヘンリー・ミンツバーグ(アメリカの経営学者)
イチロー(メジャーリーガー、プロ野球選手)
・長嶋 茂雄(プロ野球選手)
・小保方 晴子(元STAP細胞研究者)
・佐野 陽光(クックパッド創業者)
・穐田 誉輝(クックパッドを事業成長させた経営者)
ジョン・スカリー(元Apple CEO、スティーブ・ジョブズ氏を解雇した人物)
エリック・シュミット(元Google CEO)
ウォルト・ディズニー(ディズニー創業者、クリエイティブ担当)
・ロイ・ディズニー(ディズニー創業者、財政担当、元銀行員)
・孫 正義(ソフトバンク創業者)
・北尾 吉孝(SBI証券創業者、元野村証券
ウォルター・アイザックソン(『スティーブ・ジョブス』著者、アメリカの伝記作家)
ウィンストン・チャーチル(イギリスの政治家、軍人、作家)
アドルフ・ヒトラー国家社会主義ドイツ労働者党・ナチスの指導者、独裁者の典型)
千利休(戦国〜安土桃山時代の商人・茶人、 わび茶の完成者、茶聖)
織田信長(戦国〜安土桃山時代の武将、三英傑の一人目、第六天魔王
豊臣秀吉(戦国〜安土桃山時代の武将、三英傑のニ人目、天下人、武家関白、太閤)
ミケランジェロ(イタリア盛期ルネサンス期の彫刻家、画家、建築家、詩人)
ピカソ(スペイン人の画家、素描家、彫刻家、キュビスム創始者
・柳井 正(ファーストリテイリング代表取締役社長)
・ジョン・ジェイ(クリエイティブディレクター)
・佐藤 可士和(クリエイティブディレクター)
・深澤 直人(プロダクトデザイナー
・金井 政明(良品計画会長)
・大貫 卓也(クリエイティブディレクター)
・冨山 和彦(JAL経営共創基盤CEO)
・エイドリアン・デ・グルード(チェス研究者)
*羽生 善治(日本の将棋棋士、十九世名人、永世七冠)
マイケル・ポーター(ハーバードビジネススクール教授、戦略論の大家)
・クリストファー・ボナノス(『ポラロイド伝説』著者)
・小沢 治三郎(旧日本海軍軍令部次長)
・三上 作夫(旧日本海軍連合艦隊作戦参謀)
・伊藤 整一(旧日本海軍第二艦隊指令長官)
ベルナール・アルノー(LVMH創業者)
・マービン・バウアー(マッキンゼー中興の祖)
・名和 浩二(『成長企業の法則』著者、一橋大学教授、元マッキンゼー・ディレクター)
・ロナルド・フィッシャー(イギリスの統計学者)
・トーマス・ベイズ(イギリスの統計学者、牧師)
・チャールズ・リンドバーグアメリカの飛行家、大西洋単独無着陸飛行達成者)
・アン・モロー・リンドバーグアメリカの飛行家、文筆家)
ポール・クローデル(大正時代末期の駐日フランス大使)
・アーネスト・フェノロサアメリカの東洋美術史家、明治時代に来日したお雇い外国人)
ドナルド・キーンアメリカの日本文学者、文芸評論家)
*濱口 秀司(『「デザイン思考」を超えるデザイン思考』著者、米国Zibaエグゼクティブフェロー)
アラン・ケイ(「パーソナル・コンピューター」概念提唱者)
・堀江 貴文(旧ライブドア代表取締役
・ロバート・ウッド・ジョンソンJr(米ジョンソン・エンド・ジョンソン社長)
*中西 輝政(『本質を見抜く「考え方」』著者、日本の歴史学者
*デイヴィッド・マクレ・ランド(米コーン・フェリー・ヘイグループ創業者)
・ジェフリー・スキリング(米エンロンCEO)
・ケネス・レイ(エンロン創業者)
・クレイトン・クリステンセン(『イノベーションのジレンマ』著者、ハーバード大学教授)
*シロツグ(映画『王立宇宙軍 ネオアミスの翼』登場人物)
ルース・ベネディクト(『菊と刀』著者、文化人類学者)
ミシェル・フーコー(思想家)
*村上 龍(『悲しき熱帯』著者、小説家)
*アントニオ・ダマシオ(『デカルトの誤り』著者、脳神経学者)
・ジョン・カバット・ジン(MIT医学大学院教授)
・石津 智大(ロンドン大学神経生物学研究所 研究員)
・宮内 勝典(『善悪の彼岸へ』著者、小説家)
シュテファン・ツヴァイク(『ジョゼフ・フーシェ』著者)
・麻原 彰晃(オウム真理教教祖)
*村上 陽一郎(科学哲学者)
・アドルフ・アイヒマンナチス将校、アウシュヴィッツ強制収容所の元所長)
ハンナ・アーレント(哲学者)
*エーリッヒ・フロム(『反抗と自由』著者、思想家)
*原 研哉(『デザインのデザイン』著者、デザイナー)
*前田 育男(「魂動」コンセプト提唱者、マツダ常務執行役員、カーデザイナー)
・オレノ・ド・バルザック(『ゴリオ爺さん』著者)
アルバート・アインシュタイン理論物理学者、相対性理論提唱者)
・リチャード・ファインマンアメリカの物理学者)
・ルドヴィゴ・チーゴリ(イタリアの画家、詩人、建築家)
ガリレオ・ガリレイ(タリアの物理学者、天文学者、哲学者)
・アレクサンダー・フレミングペニシリンの発見者、イギリスの細菌学者)
・ナシム・ニコラス・タレブ(『ブラック・スワン』著者、科学者、元トレーダー)
・サリー・シェイウィッツ(エール大学神経科学者)

・リチャード・ブランソン(イギリスの実業家、Virginグループ創業者)
スティーブン・スピルバーグアメリカの映画監督)
*小林 秀雄(『美を求める心』著者、評論家)
ソクラテス古代ギリシアの哲学者)
アナクシマンドロス古代ギリシアの哲学者)
オスカー・ワイルドアイルランド出身の詩人、作家、劇作家)
ドストエフスキー(『罪と罰』著者、ロシアの文豪)
プラトン古代ギリシアの哲学者、ソクラテスの弟子にしてアリストテレスの師)
パイドロス古代ギリシアの哲学者、ソクラテスの弟子)
・谷川 俊太郎(詩人)
・ティム・クック(Apple CEO)
マーティン・ルーサー・キング(アフリカ系アメリカ人公民権運動指導者、ノーベル平和賞受賞
カルロス・ゴーンルノー取締役会長兼CEO、日産自動車会長、三菱自動車会長)
ジョージ・レイコフ(『レトリックと人生』著者、カリフォルニア大学 言語学者)
*ダニエル・ピンク(『ハイコンセプト』著者、アメリカの作家)
マックス・ウェーバー(『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』著者、政治学者)
・フェルナン・ブローデル(地中海史学者)
(・ほか古代〜近代の哲学者も多数…)

ずららららーーと並んでいまして、なんと開けてビックリ、107名 の過去から現在までの偉人たちの引用で、著者である山口さんの主張をサポートするように構築されていたのです。

まさにこれこそ脱帽の 編集力 の賜物であり、この新書一冊のため、あるいは過去の蓄積を通じて、掛けられたリサーチ量と積み上げた参考資料のボリュームを想像しないではいられません。(過去に必読のビジネス書として有名になったものもたくさん出てきています)

この本からは本当にたくさんの知識と新しい視点を吸収させていただきました。

著者の山口さん、こんな良書を書いてくださって、本当ありがとうございます!とご本人に御礼申し上げたい気持ちで一杯です。


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片や、あいまみえるのは、日本屈指の画廊「東京画廊」のオーナーである山本豊津さんが、戦後以降の日本での絵画論とアートマーケティング論について書かれた一冊です。

 

アートは資本主義の行方を予言する
(2015年・山本豊津)

アートは資本主義の行方を予言する (PHP新書)

アートは資本主義の行方を予言する (PHP新書)

 

 

6章構成の全218ページですが、「第1章 資本主義の行方と現代アート」と「第6章 武器としての「文化」ーー美の本当の力とは?」に特に読み応えのある論理展開や主張があり、アート領域の予備知識がさほどなくても、面白く読み進めることができます。

そして私がアーカイブしたいと最も思った3箇所が次の通り。

・絵画は究極の資産であり投資の対象に
 絵画の史上最高額はどれくらいだと思いますか?現時点(2015年7月)で最高額はゴーギャンの『ナフェア・ファア・イポイポ(いつ結婚するの)』で約355億円。次いで、ポール・セザンヌの『カード遊びをする人々』が約325億円と言われています。/中略/ せいぜい一メートル四方程度の小さな絵画に、これだけの値がつく。一般的な感覚からはちょっと想像できない世界だと思います。/中略/ 制作原価はキャンバス代と絵の具代だけなら高くても数万円程度でしょう。かりに2万円だとして350億円になったとすると、じつに175万倍になったということになります。/中略/ 価値の伸びシロが一番大きいゆえに、お金持ちが投資する究極の対象は絵画だといわれています。ただし、価値が上がるまでには時間がかかります。資産となるまでの時間に、価値のカラクリがあるのです。 お金持ちが絵画を資産として持つ理由は他にもあります。絵画ほどかさ張らず、軽く、持ち運びに便利な資産は他にはないのです。たとえば350億円をお札にしたらどれくらいの量になるでしょう。一万円札だと1億円で10キロですから、350億円なら3.5トン。金塊はグラム5000円として計算すると1億円で20キロなので、350億円だとじつに7トン。とても持ち運べるものではありません。戦争や災害など不測の事態があった時、絵画なら350億円のものでも抱えてすぐに飛び出せます。同じ美術品でも彫刻などは重くて持てないし、古美術品の壷や皿などは壊れてしまう危険もありますが、絵画ならその心配はありません。 さらに絵画はステータスの証明にもなります。数億円の現金や金塊を家の中に並べていたら嫌味で野暮ったい人物にしか見えません。でも、同じ金額の絵を飾っていたら印象はまったく違います。現金を見せびらかすような人物よりはるかに文化度の高い、教養のある人物だと思われるでしょう。

・国力の象徴としての文化と芸術
中でもエポックメイキングだった出来事は、1964年、ラウシェンバーグがヴィネツィア・ビエンナーレで最優秀賞を受賞したことです。これによって芸術の分野でも米国は世界の先頭に立ち、芸術の中心はパリからニューヨークへと移ったのです。私の最初の海外渡航は1971年でしたが、アメリカからヨーロッパへ渡り、現代アートが展示される美術館で、大量のアメリカンポップアートを目撃しました。 芸術の覇権を握ることは米国の悲願であったといってもいいでしょう。新大陸に国家を築き、二つの対戦を通して世界一の経済大国と軍事国家にのし上がった米国ですが、新しい国家であるだけに文化の蓄積はありませんでした。とくに芸術に関してはヨーロッパの歴史には敵わなかった。どんなに腕力や体力があっても、どんなにお金があっても、それだけで人間は尊敬されることはありません。やはり教養や文化があり立派な人格があってこそ尊敬されるものです。国家や民族も一緒です。どんなに軍事力や経済力、政治力があったとしても、それだけでは他国から尊敬されない。独自の文化や芸術があり、それが他国からも認められて初めて、国家としての存在や誇りを感じることができる。/中略/ このような動きは米国だけのものではありません。今や日本を抜いて世界第二位の経済大国となった中国も、国家をあげて美術の勃興に力を入れています。その一つの表れが、美術品の売上だかでしょう。欧州美術財団(TEFAF)の統計によれば、世界における美術品の総売上高は2013年度で約6兆7000億円。そのうち38%が米国で国別第一位、次ぐ第二位が中国で24%となっています。/中略/ 文化や芸術において価値を作り出し、世界にそれを認識させ定着させることは、国家としての価値を高め、政治活動においても経済活動においても大きなメリットをもたらします。だからこそ各国ともに政治と経済の競争と確執の裏で、文化と芸術の覇権争いも抜かりなく行っているというのが現実なのです。

・「脱欧米」こそ「もの派」の悲願
私は「作品は『素材』と『技術』と『コンセプト』の三つからなる」と考えます。学生には「アーティストに作品の話を聞くなら、素材は何か、どんな技術でつくったのか、そしてどういう意図で何を表現したくて描いているかを聞きなさい。その3つがわかれば作品の内容がわかるよ」と話します。

 

<ほか面白くておすすめしたい項>

・お金と絵画の意外な共通点とは

・価値の転換と飛躍こそが芸術の本質

・天才千利休の壮大な価値転換

・資本主義の終焉とアートの可能性

・曾梵志(ザン ファンジ)の「最後の晩餐」が村上隆を抜いた

・美術をめぐる国家戦略

村上隆スーパーフラットの意義とは

会田誠と新ジャポニズム

・近代で断絶している日本の文化

・時間とともに変化し消えていく東洋の芸術

・線には三つの種類がある

・美しかった江戸時代へもう一度還ってみる

・美は「距離感から生まれる」

・アートの力が新しい時代の価値を生み出す

 ※一部順不同

 

 

「アートとサイエンスの関係」、「バスキア」という方面について興味が湧いた人は、ぜひこちらをご覧下さい。TEAMLab猪子さんホリエモンさんが対談していて、とても面白いです。(私の知見と文章力では、この対談を超える文章を書けそうにありませんので、ぜひありのままの原文をお読みください!)

 

それでは、本日はこの辺で。

 

「かわいい」の考古学 と 愛され上手なカエルたち他


前回のエントリにて、鳥山明氏の『Dr.スランプ』作品における、デフォルメと1本の線にたくさんの意味をこめて描写することにより生まれる、そのあか抜けて「かわいい」キャラクター造形について触れましたが、エントリを書いた後に、昨年に行った六本木の21_21 DESIGN SIGHT「野生展」にて、『かわいい考古学』というフレーズとその展示内容があったことを思い出しました。

幸いにも公式HPと展覧会レポートが公開されていたので、こちらに引用・転載させていただきつつ、その深い含蓄を僭越ながらアーカイブさせてもらいました。

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「かわいい」の考古学:野生の化身たち

古くは1万6000年前に遡るとされる縄文土器から今日まで、人間はさまざまなかたちで「野生の依り代」を生み出してきました。心の内からわきあがる形は信仰の対象に留まることなく、道具や娯楽の対象としても広がりを見せてきたのです。ここでは私たちの身近に存在してきた野生の化身を紹介します。それは「かわいい」化身です。日本人は縄文の時代から、自然と人間の中間にいる存在たちを「かわいい」造形にする特異な才能を持っていました。その能力はいまも衰えていません。

 

 

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ギャラリー2のスペースには、見慣れたキャラクター、ハローキティケロちゃんコロちゃんが。

どうして?と思うかもしれませんが、実はこれらの「かわいい」も野生の表現のひとつ。意外ですよね。日本人は縄文時代から現代に至るまで、自然と人間の中間にいる存在を「かわいい」造形にする特異な才能を発揮してきた人々なのだそうです。

特にカエルは、陸と水中を、生と死(冬眠)を、行き来する魔術的な生き物として取りあげられ、京都の栂尾山 高山寺に伝わる「鳥獣人物戯画」でもその姿が幾度も登場しています。動物を擬人化したこの作品は、昔の日本人による、自然と文化の懸け橋と言っても過言ではないでしょう。

 

なんと強烈な考察でしょうか。

古代からの信仰心をあらわす「野生の依り代」の一形態として、日本人は「かわいい」形態に、特異な才能を発揮して部族 だったとは!

これはとても個人的な解釈ではありますが、これは「特異な才能」というよりかは、「特異な嗜好」と言う方がより正しい気がしています。

縄文〜弥生あたり、土を素焼きして造形物が作れる技術が伝来したぐらいの時代の、土偶や埴輪のバリエーションをGoogle検索してみると、それこそアフリカの伝統的な力強い原始のニュアンスを含んだ人面や人物像と同じ様なものが、たくさんあることが見て取れます。

なので、まだ文明が始まり出した頃で、野生味が強い人間の感性のスタート地点は、日本も他の大陸も、大差がなかった様に思えます。

しかし、その後の歴史の要所要所で「かわいいもの」をとくに嗜好して残してきた、という特性が日本人にはあるような気がします。

それこそ、やや偏見めいているかもしれないが、日本人自体(広く言えばポリネシア系〜モンゴロイド系)に「かわいい顔立ち」というか「童顔」の人が多いので、そういった顔相への嗜好性のもと、世代を重ねてきた可能性がありそうでもあります。

それ故に「かわいいもの」には目がない文化体系の民族になった、日本人の美意識は「かわいい方向」に引っ張られて蓄積してきた、と論じてもそれなりに通じてしまう気がする、このなんちゃって文化人類学的推論です。

もちろん日本文化にも複数の系統があって、歴史の教科書でも習う 侘び・寂び・幽玄 や、茶道・歌舞伎・雅楽 といった大人な洗練もあっての別系統での「かわいい・萌え」の文化があるのだと思います。全てでは無くあくまで一部ではあると思いますが、それでも他国に比べると極めて高いサンプル数で「かわいいもの」が歴史上のアーティファクトとして遺っている・現代人の感性の中に生きていることは、間違いなさそうな気がしている。

 
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そして、「カエルを魔術的な生き物として捉えていた」というのは、画期的というかあらためてハッとさせられたポイントでした。(よく見たら展覧会ポスターに描かれている黒い生き物もカエル風)

たしかにカエル関連で日本人が作りだしたものを探すと、探しただけ出てくる。

以下、ざっとその列挙です。

・解説にもあげられていた、日本最古の漫画であり国宝でもある「鳥獣人物戯画」に主役として登場

・ブラックジョークも利いた現代版の「鳥獣戯画」(小さく話題のフリー素材提供サイト)でも大活躍

・あの伊藤若冲もじつはカエル好きでたくさん描いている

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 絵画の中の蛙 若冲のカエル①「菜蟲譜」 : caeru blog カエルのおへそ

・漫画『ジョジョの奇妙な冒険』にもカエルの不思議な描写が多数
 - あのメメタァのシーンで殴られても死なない生物はカエル
 - ドッピオが電話機代わりに使うアイテムの一つがカエル
 - ウェザーリポートが降らせる物体の一つにもカエル

 

そして鳥山画風のキャラクターが時間が経過してもまったく古びないのと同様に、調べてみるとケロちゃんコロちゃん(製薬企業のコーワのキャラクター)が、すでに誕生から60年近く立っていても、いまだ「かわいい」存在感を放っているのにも驚きです。

コーワのケロコロランド♪|ケロコロヒストリー

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さらに似たようなカエルキャラたちはまだまだ日本にはいます。

いったいどれだけ愛され上手なんだ、君たちは!

ケロタンとガーコ(コナミのキャラクター)

みうらじゅん氏の自画像キャラとしての「ホワッツ・マイケル富岡」

ケロロ軍曹ど根性ガエルぴょん吉、ケロッピーなどほか多数
 色々なカエルキャラまとめ - NAVER まとめ   

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さて、カエルキャラの勢いがありすぎて、取り留めがなくなってきましたが、ここで本日のパンチライン。“野生” つながりで、アレキサンダー・マックイーン について引用しておきます。

彼の過去の展覧会では、 "Wild" ではなく“Savege” を謳っている分、表現がだいぶ難解です!(展覧会の原題が Savage Beauty )  むしろ日本の「かわいい」からは正反対の対極に位置するくらいの美意識かもしれません。

“狂気をはらんだ美しさ” が、彼の表現したかった方向性だったようです。

 


時系列をコンテンポラリーに限っての目線ではありますが、ダミアン・ハーストバンクシー もしかりで、イギリス人のアーティスト気質として、ややグロテスク&ダークといったネガティブ系な位相の中に、美を見出した人が評価される傾向がありそうです。マックイーン氏の美意識も同じく、日本人の感覚からはそうとうに遠い位置にあるので、個人的には正直、共感はしずらいです。。

しかし、まあ、世界のアートの本拠地であるロンドン芸術も幅広であり、観る側・評価する側も多様性を受け入れる素地がしっかりしている裏返しなのかなとも思いました。

ステレオタイプな通説で行けば、紳士の国だけど、皮肉好きでけっこう根暗気質。年中曇りが多くて天気も悪くなりがちだし、食事事情についてもながらく悪名が轟いていた(…という時代が長かった)。なんちゃって文化人類学かじりとしては、その環境が、美意識や嗜好に及ぼしている影響はヒジョーに強いものと見ています。


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さて、最後の締めは、行くところまで行っての「キャラもの」対決。

各国の “キャラものに対する国民意識” の違いは、オリンピックのマスコットキャラクターに最も現れていました。

往年のオリンピックのマスコットたちが時系列順に並ぶとこんな感じ↓

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あれ?ロンドン?


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うーん、際立っています!陰の異彩のオーラを放っています!

名前は「鉄骨のしずくのウェンロックとマンデビル」だそうです。

やっぱり英国の方々は、ややネガ系 に嗜好がおありのようです(笑)

 

なおロンドンオリンピックの全体の写真集がこちらのサイトに美しく納められていますので、是非その中でウェンロックマンデビルを見つけてみてください!

ロンドンオリンピック特集・最新情報

 

なお、東京2020はこちらに落ち着いたようです。

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まあ、賛否両論だったみたいですが、どれを選んでも「かわいい」路線からは外れないのが日本のお国柄ですかね!結果はどれもかわいいーんじゃない!?

 

本日はこのへんで!

 

*当ブログでは、著作権法第三十二条(文化庁サイト)に基づく引用を心がけており、掲載される画像・文章の著作権は当サイトには帰属しておりません。最大限の配慮はしているつもりですが、何かご意見があられましたら管理人までお知らせください。 管理人  啓白

クリエイターとしての鳥山明が凄すぎる件


突然ですが、『Dr.スランプ』をこの歳になって読み返しています。

きっかけは下記のNAVERまとめ記事を見かけたことです。

更新日: 2016年06月02日 (necodaisukiさん)

人、動物、機械、モンスターなど様々なイラストに、ペンを使い差別なく命を与えた。その世界では、動物が人と会話する。機械が生きている。そんな感覚を私たちにとって当たり前にしてくれた。こんなにも愛に溢れた漫画家のイラストやグッズを集めました。

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あらゆるものに命が与えられて生き生きとしているドクスラ独特の世界感には、古来日本人がもっていたとされるアミニズム観・創世神話観が、現代風の漫画的なデフォルメ化による再構築がなされて織り込まれていて、結果それが実に Kawaii 状態に仕上がって、広く万人に愛される作品となっている…

これはもはや一周廻って、美術史的にも鳥獣人物戯画北斎漫画と十二分に肩を並べられるのでは?と感じ入り、深〜い衝撃を受けてしまったのです。

 早速、全巻を大人買いのうえで読み返してみると、子どもの頃に何冊かコミックを読んでいたはずなのに、全く気付けていなかったことがこんなにもあるのか!!鳥山先生の一貫した画力・書き込み力の素晴らしさ!!に圧倒されっぱなしです。

だいたい、キャラ描写もまだ安定していないのが漫画的には通例の第一話の挿絵表紙で、このクオリティ↓ですよ?(鳥山先生、デビュー3年目のまだ26歳ぐらい)

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さっそく当ブログのアイコン画像を、鳥山先生への最大のリスペクトを表して、天才科学者にして3秒だけカッコ良くなれる名脇役、則巻千兵衛さんにさせていただきました!

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いろいろ面白くなってネットの海をクロールしてみたら、あのマンガの神様たちから世界の著名人たちまで、色々な方からの賞賛コメントが秀逸・絶賛の嵐でした。

やっぱり、すごいぜ!鳥山先生!

少年漫画で鳥山明の絵ほど小学生に愛された絵はないと思う。 - 漫画のネットの名言

更新2015年7月5日(moonforestwordsさん)

(鳥山明という漫画家に対して)

手塚治虫
「ちょっと上手すぎるよね」「彼は僕の後継者」

荒木飛呂彦
「鳥山先生の絵は、漫画家からするとちょっとした発明のようなもの」

井上雄彦
「鳥山先生の絵は漫画家からすると魅力的すぎるんですよね。マネしたくなる気持ちもわかります」

冨樫義博
「嫉妬するほど上手い」

・夏目房ノ介
「漫画界には大友・鳥山以前と大友・鳥山以後が存在する」

尾田栄一郎 
「神様。ディズニーより上手い」

小林よしのり
デフォルメが上手い漫画家は、わし以外には鳥山明くらいかな」

ジョージ・ルーカス
「彼のイラストを見た時は驚いたよ。素晴らしい。本当に日本人が描いた絵なのかと思った」

ジェームズ・キャメロン
鳥山明のファンなんだ。彼の絵を見るとワクワクするんだ」

・シド・ミード
「鳥山のセンスは素晴らしい。世界中探してもこれだけのデフォルメセンスを持つイラストレータはいない」

トッド・マクファーレン
「鳥山の何が一番凄いのかと言えば、あの色彩センスと画材選択の素晴らしさだ」

エミネム
ドラゴンボールの作者に俺のアルバムジャケットを手がけてほしい」

鳥嶋和彦(元ジャンプ編集長)
「基本的な絵の勉強を漫画ではなく、デザイン画などから学んでいるため、バランス感覚が優れている」
トーンを使わないので、白と黒のバランスを取るのが非常に上手い」
「背景などを描かなくても画面が持つだけの構成力とデッサン力を持っている」 

 


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さらに双璧作品である「ドラゴンボール」が、その後の少年マンガに与えた影響の大きさと鳥山画風の分析についても、なるほど!という考察が下記サイトにて展開されていましたので、こちらも引用させて頂きます。

「ドラゴンボール」、時代を超えるその絵の力 - マンガナイト

更新2013年5月14年(Pingmag寄稿文)

1980~90年代、全国の少年少女を魅了したマンガ「ドラゴンボール」がいままた日本で人気を集めている。きっかけは原作者の鳥山明氏が原作・ストーリー・キャラクターデザインで参加した17年ぶりの新作映画「ドラゴンボールZ神と神」の上映。主人公の声優をつとめる野沢雅子氏が「キャラクターもストーリーも往年のファンを裏切らない」というように、20年以上前の作品がいまでも通用するのはなぜか。展覧会の原画や作品を見ていると、洗練された絵柄時代や国境を超える世界設計が大きいのではないかと思う。そしてこのエッセンスは確実に、「NARUTO」など現代の少年バトルマンガにも継承されているのだ。

===

2003年発行「ドラゴンボールランドマーク」、2004年発行「ドラゴンボールフォーエバー」。この他、設定を掘り下げるガイドブックが各種発行されている。

もちろんキャラクターの魅力も大きい。登場人物の顔は基本的に、1本のシンプルな線で輪郭が描かれている。1本の線にいろいろな意味を込めて描くのは、複数の線を使うよりも難しく集中力がいることなのだそうだ。この線で鳥山氏がキャラクターを描いた結果、それまでのマンガ作品にはない垢抜けた造形を持つキャラクターが生まれた。

〜中略〜

鳥山氏のデザイナーとしての能力も影響 しているだろう。あるデザイナーの友人は「構造からとらえて人物を描いている」と指摘する。鳥山氏は元グラフィックデザイナーであるため、キャラクターの感情や音を表現する擬音についてもグラフィック的な仕上がりを意識しているようにみえるそうだ。鳥山氏自身も「マンガ脳の鍛えかた」(集英社)内のインタビューで、「デッサンをたくさん描いたりした」と答えている。それまでのマンガ家はマンガや絵画を見ながら絵を描く力を鍛えていた。それに対し鳥山氏がグラフィックデザインの素養を持ってマンガの絵を描こうとしたことで、全く違う系統の「マンガ絵」が生まれたのだ。

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1993年発行AKIRA TORIYAMA EXHIBITION「鳥山明の世界」展図録

マンガ評論家の南信長氏は「現代マンガの冒険者たち」の中で「ビジュアルの変革者」という系譜で、鳥山明を取り上げている。手塚治虫のマンガ的表現にアメコミを加えたスタイリッシュな絵柄」とのこと。「冒険ファンタジー系の作品をかいている作家はすべて影響を受けている」としている。その証拠に、 鳥山氏のキャラクターは登場から20年以上たった今、最新のマンガのキャラクターと並んでも遜色ない。映画の公開を記念して、同じ週刊少年ジャンプで連載中の「トリコ」や「ONEPIECE」のキャラクターと一緒に登場するアニメが放送されたが、まったく違和感がなかった。「宇宙戦艦ヤマト」など過去の作品をリメイクする際にキャラクターをデザインし直すのとは対称的だ。 

 

う〜ん、はやく残りの巻を読み直したいので、今日はこのへんで!!

 

 *当ブログでは、著作権法第三十二条(文化庁サイト)に基づく引用を心がけており、掲載される画像・文章の著作権は当サイトには帰属しておりません。最大限の配慮はしているつもりですが、何かご意見があられましたら管理人までお知らせください。 管理人  啓白

【書籍】『センスは知識からはじまる』・『クリエイティブマインドセット』

「これからの ART & SCIENCE を〜」とブログに銘打ちましたが、まずは走り出しの序盤ということもあって、自分が積み上げてきたことと、今これは重要な視点と据えていることを振り返ってみようと思い、書棚を整理して書いてみようと思います。

その中でこの本は自分にとって貴重な肥やしになったなぁ〜と思われたものを、それなりに意味のある “2冊1セット” にして、感想やあらためて読み返してみての発見を添えて書いてみました。

それでは記念すべきファーストセット、行ってみましょう。(どきどき)

 

センスは知識からはじまる
 (水野 学・2014年)

センスは知識からはじまる

センスは知識からはじまる

 


クリエイティブディレクター 水野学氏(1972年生まれ、代表作「くまモン」「NTTdocomo iD」等)によるセンスアップの指南書。


2015年にこの本に出会い、

「センスは生まれついたものではなく、センスは知識から身に付けることができる」

という過去10年で最大の気づきと刺激をもらった一冊です。

「センスってなに?」というシンプルな疑問に対して、目次と一部本文から突き刺さるフレーズを引用させていただくと、次のとおりです。

・「センスとは知識の集積である」

・「センスとは知識にもとづく予測である」」

・「客観情報の蓄積がその人のセンスを決定する」

・「センスの良し悪しが個人と企業の存続に関わる時代」

・「時代は『次の利休』を求めている」

・「企業の美意識やセンスが企業価値になる。
  これが今の時代の特徴です」


水野さんの主張を普遍的に捉えて、“センスがある人でないと失敗する”と思われている事柄、たとえば新商品を作る際の色選び、出稿広告のデザインレイアウト案、プロモーション媒体の選び方などは、知識が無い人よりも、知識が(正しく)ある人の方が、圧倒的に有利ということには、非常にうなずけます。

そして日常生活においてもほぼそれは同じことでしょう。思い浮かべてください。

仮に引っ越し先の物件を探している、もしくはマイホームを購入しようとしている状況だったとして、後々に後悔しないように自信をもって決断が出来る人は、候補物件の下見数や過去の引っ越し回数、つまりは「経験値=知識」が多い人だとは思いませんか?

完全に素人な人が、プロの不動産屋さんや専門のコンサルタントを頼る・雇うという行為は、その人に不足している「知識=センス」を補っている行為と言えそうです。

また水野さんが言うところの
・デザイナー=職人
・クリエイティブディレクター=センスのあるコンサルタント
という棲み分けの捉えも、なるほど!という感じです。

世の中で紹介されている成功事例においても、まずクリエイティブディレクターが企業を診断して、新しいコンセプト・大方針をつくり、デザイナーがクラフトマンシップを発揮して実物化・調整案をフィードバックする、という川上⇒川下の流れがあるように思います。

両者には立場の違いがありつつも、それぞれの行程で必要とされる基礎と専門の知識(ナレッジ)を、ちゃんと両者ともに持ち合わせている人物同士がコンビを組めば、それはそれは良いプロダクトに仕上がる、ということなんじゃないかと。(それゆえに、誰と誰が組むかで勝負の9割は決まる、といってしまっても過言ではない気もします)

もちろんこの考え方は、ビジネスに限らず、何かを作り出す行為、たとえば良い小説を書くためには過去に良い作品をたくさん読んだ経験、良い音楽を作り出すためには過去の良い音楽をたくさん吸収・蓄積していることが必須、という風に落とし直しても、合点がいきます。

たしか音楽家坂本龍一さんが「過去の音楽を知り尽くさないと、いま自分が作った音楽が本当にオリジナリティ性のあるものかどうか分からないよね〜」とどこかでおっしゃってましたが、まさに通ずるところだなあと思いました。

===

さて、この本を読んで数年後に知ったことで、日本では Innnovation という英単語を「技術革新」という訳で広まってしまったのですが(つまりは新テクノロジーに主眼)、これは本質的には非常に片手落ちで、正しくは「新結合」と訳することが重要だった、という小話があります。

その続きとしては、 “だから日本では技術にばかり焦点が行ってしまい、SONYiPhoneを生み出せず、appleにはそれができた”と。

つまりは過去に取り合わせとされたことのない「知識と知識の新規合成」によって「イノベーティブな革新」は生まれ得るのであり、その合成の元とできる知識を領域横断的にできる限りたくさん持っている方が、全てのビジネスにおいて有利となるのは自明のことなのではないかと。

※ 上記の話は、企業比較の話でもあるので、複雑な組織論的な違いも大いにあったことだと思われます。


加えて、いまでこそクリエイティブ人材だ、クロスボーダー人材だ、なんて言葉がもて囃されていますが、そんなカタカナ言葉が少なかった昭和の時代(もちろんパソコンもGoogleも無い時代)に書かれた本を読んでいると、何でも知っている「教養のある人」がビジネスにプラスをもたらす人材として評価されていたようです。

つまりはいまで言う「センス」とは、昔で言われていた「教養」という言葉だったのかなーなんとも思います。人生、一生勉強ですね。

===
 

クリエイティブ・マインドセット
 (トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー・2014年)

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法

 


アップルやサムスン、P&Gなど名だたるグローバル企業の成長を支えてきたイノベーションとデザインのコンサルティング会社「IDEO」の創設者兄弟が、「人間はみなクリエイティブ」という信念と「デザイン思考」のノウハウを語った一冊。

原題は“Creative Confidence”。

なかなかに厚みのある本ですが、私の胸に刺さったポイントは次のとおりです。

・クリエイティブコンフィデンス=創造力に対する自信

・75%の人が「自分はクリエイティブ」と思っていない。

・「心理学者が誰かに創造性を教え込みたいと思うなら、クリエイティブになる決意を促し、そう決意する喜びを植えつけ、必ずやってくる難問に対してあらかじめ免疫を付けさせる方が上手くいく確率は高いだろう。クリエイティブになると決意したからといって、想像力が湧いてくるとはかぎらないが、そう決意しなければ湧いてこないことは確かだ。」何もしないで想像力が湧いてくることはまずない。意識的にクリエイティブになると決意する必要があるのだ。

・文化や環境は創造力に対する自信に大きな影響を及ぼす。だから似た考えを持つイノベーター軍団を周囲に築こう。オンラインでも個人的にでもかまわないから、参加できるグループを見つけよう。

・世界5カ国5000人を対象とした最近の調査によると、日本以外の国の回答者たちは、日本が世界でいちばんクリエイティブな国だと答えました。ところが日本人がもっともクリエイティブだと回答した割合は、なんと日本がいちばん低かったのです。

・クリエイティブ・コンフィデンスに欠かせない要素が2つあります。 斬新なアイデアを思いつく人間の生来の能力と、アイデアを行動に変える自信です。私のこれまでの経験からいっても、日本人は本当に本当にクリエイティブです。その創造性に「自信」さえプラスすれば、きっと創造力を解き放てるはずです。

・キーワードが「デザイン思考」です。デザイン思考とは、IDEOやdスクールで独創的なアイデアを生み出すために用いられている方法論であり、一言で言えば、製品開発や問題解決にデザイナー思考を取り入れる人間中心のアプローチ。人間を観察し、人間の話を聞き、人間に共感してニーズや問題を突き止め、アイデア創造、プロトタイピング、テストを行い、人間からフィードバックを得ながら、コンセプトを反復的に改良していく----つまりデザイン思考の中心にはいつも「人間」がいるわけです。

この本は2014年に出版されていますが、振り返ればこの頃を皮切りに「デザイン思考(Design Thinking)」という言葉を取り上げた本が日本で出版され始めていたのだなあ、と思います。

調べてみたら、デザインの専門誌の日経デザインでも2014年5月号で初めて「デザインシンキング」が特集として組まれていて、そのあと半年後の10月号に再び特集されているので、業界的にもメルクマールになっていた年度だったことが伺い知れます。

個人的にけっこう驚きだったのが著者のトムさんがかなりの親日家だったこと。

訳者あとがきのページでも紹介されていますが、奥さんは日本人、東京大学スタンフォード大学の d School を真似て創設した iスクール でエグゼクティブフェローを務め、仕事でも日本とのつながりが多々あるとか(IDEO tokyo のパートナーでいらっしゃいます)。

そんなトムさんが「日本人にはポテンシャルがある!」とおっしゃっているので、日本にはクリエイティブのポテンシャルが相当にあるのかなあと思わざるを得ません。

===

ここからは私見にはなりますが、たしかに日本は、

①日本美術の変遷をたどるだけでも相当に厚みのあるコンテンツ数
 (縄文〜安土桃山〜大江戸〜漫画・アニメまで、さらに日本の美術館環境

②日本各地の伝統工芸からハイテク製造業までに評価されるクラフトマンシップ
 (日本スゴ〜イデスネ!!視察団で取り上げられている側面など)

③世界最強レベルの食材&シェフ&レストランが揃った外食環境
 (食も文化力を反映する領域と考えます、ミシュラン東京が世界最多星獲得都市

と、足元を見返すとかなりの特異点が揃っている気がします。

(その代わりに政策力と多様性受け入れ力に関しては他国よりも、がくんっと劣っているとは思います)

※この辺は後々に当ブログで深堀していきたいと思っているトピックスです。

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さて、話を本の方に戻しますと、水野さんの本はインプットに関する領域、トムさんの本はアウトプットに関する領域の感度をぐーんと高めてくれた貴重な2冊でした。

そして、私個人の中では下記のように腹落ちしています。

・センスがある ⇒ しっかりと知識を蓄えている

・クリエイティブである ⇒ アイデアを行動に変える自信を持っている
(=失敗や恥を恐れない免疫がある)

それでは今日はこのへんで!

 

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Hello, world! Let's start blogging...「位置について用意」を英語で言うと「On Your Mark」

 

SNS全盛期も少しオフピークして、脱Facebook派の人も出来てきた、この2018年。

周回遅れであえてブログデビューしてみました S62otoko 、六本木で働く30歳、新婚・マイホーム持ちです。

道端で露店を開いているような適度な緊張感のもと、時代に必要とされるクリエイティブ人材への道のりを綴ってアカーイヴしてやろうという魂胆でやって参ります。

縁あって読んでくださっている方、基本的にご笑覧して頂くスタンスでよろしくお願いします。


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 さて、ブログのタイトルを考えるにあたり、いろいろな言葉を検索していたら、たまたま「位置について用意…」を英語で言うと「On Your Mark」ということを知り、前にどっかで見たジブリの短編映像も一緒に出てきたので、そちらを初エントリに。

 

On Your Mark - Wikipedia

On Your Mark』(オン・ユア・マーク)とはCHAGE and ASKAが発表した楽曲「On Your Mark」のプロモーション・フィルムとして作成された、スタジオジブリ制作のアニメーション作品である。1995年7月15日、映画『耳をすませば』と同時上映で公開された。元々はCHAGE and ASKAが1995年 - 1996年にかけて開催したコンサートツアー「SUPER BEST3 MISSION IMPOSSIBLE」の中で、演出の一環としてコンサート会場で上映されていた。これは、PVを制作する際にASKAからアニメーションでやってみたいと持ちかけ、それならばと宮崎作品のファンであったCHAGEが提案したアイデアだという。監督によると、タイトルや歌詞をあえて曲解し悪意に満ちた映画に仕立て、いつか来る未来に生きるということをイメージして制作したという

ストーリー
地表が放射能で汚染され、病気が蔓延し、人類が地下に住むようになった世紀末後の未来の都市が舞台。
あるカルト教団の施設「聖NOVA'S CHURCH」を襲撃、制圧した武装警官隊。その中の警官2人は、教団施設の奥で翼の生えた少女を発見する。2人は彼女を救助するも、研究資料として今度は政府機関の施設に連れ去られてしまった。2人は彼女を空へ帰そうと奮闘を始める。

 

Chage & Aska - On Your Mark - Video Dailymotion 

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ちょっと小難しいけども、見た人の想像力にストーリーを任せる仕立て、3.11以降という今に観てみる時代性、いろいろあったチャゲアスによる歌詞、とかなりアートな動画がとても印象深かったです。

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…そして思ったのが、黄色い車が背景に対してかっこよく映えること、映えること!

カラーコーディネイト的に、青空と緑を背景にした時に対して、すこぶる相性が良いですね。(青色と黄色の組み合わせはやっぱり鉄板⇒絵本『あおくんときいろちゃん』

そして道路のグレーに対しても黄色は良く映える。

モノトーンとの相性が良いことこの上なしです。

NYで街中を走ってるタクシーも黄色だし、マーティン・スコセッシ監督の『TAXI DRIVER』のタクシーももちろん黄色だし、

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逃げ恥』以降に黄色の日産JUKEが良く売れたということにもなんとなく合点がいきます。(最近だとトヨタCHRのイエローにも心惹かれますね)

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S62otokoもいつか贅沢の為に車を買う時が来たならば、黄色の2シーター・ポルシェにしたいと心に決めております。(ずうっとゴールド免許のペーパードライバーですが!)

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はたまた車の色関連のネタでいくと、最近では Good Design 賞 の常連になっているマツダの高級色としてのメインカラーが "ソウルレッド" から "マシーングレー" にシフトしだしたタイミングであると、何かで聞きかじりました。(CMで走っている車もいつのまにか赤からグレーに変わっています)

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そしてまたぜんぜんの別ジャンルに話は飛びますが、ここ最近は平面グラフィックの世界で、2〜3トーンやグラデーションカラーが流行りだしているようで、よくよく目にすることが多くなっているので、車業界にも数年後にそういう気分が来てるかもしれませんね。

今日はこのへんで!

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