【書籍】『センスは知識からはじまる』・『クリエイティブマインドセット』

「これからの ART & SCIENCE を〜」とブログに銘打ちましたが、まずは走り出しの序盤ということもあって、自分が積み上げてきたことと、今これは重要な視点と据えていることを振り返ってみようと思い、書棚を整理して書いてみようと思います。

その中でこの本は自分にとって貴重な肥やしになったなぁ〜と思われたものを、それなりに意味のある “2冊1セット” にして、感想やあらためて読み返してみての発見を添えて書いてみました。

それでは記念すべきファーストセット、行ってみましょう。(どきどき)

 

センスは知識からはじまる
 (水野 学・2014年)

センスは知識からはじまる

センスは知識からはじまる

 


クリエイティブディレクター 水野学氏(1972年生まれ、代表作「くまモン」「NTTdocomo iD」等)によるセンスアップの指南書。


2015年にこの本に出会い、

「センスは生まれついたものではなく、センスは知識から身に付けることができる」

という過去10年で最大の気づきと刺激をもらった一冊です。

「センスってなに?」というシンプルな疑問に対して、目次と一部本文から突き刺さるフレーズを引用させていただくと、次のとおりです。

・「センスとは知識の集積である」

・「センスとは知識にもとづく予測である」」

・「客観情報の蓄積がその人のセンスを決定する」

・「センスの良し悪しが個人と企業の存続に関わる時代」

・「時代は『次の利休』を求めている」

・「企業の美意識やセンスが企業価値になる。
  これが今の時代の特徴です」


水野さんの主張を普遍的に捉えて、“センスがある人でないと失敗する”と思われている事柄、たとえば新商品を作る際の色選び、出稿広告のデザインレイアウト案、プロモーション媒体の選び方などは、知識が無い人よりも、知識が(正しく)ある人の方が、圧倒的に有利ということには、非常にうなずけます。

そして日常生活においてもほぼそれは同じことでしょう。思い浮かべてください。

仮に引っ越し先の物件を探している、もしくはマイホームを購入しようとしている状況だったとして、後々に後悔しないように自信をもって決断が出来る人は、候補物件の下見数や過去の引っ越し回数、つまりは「経験値=知識」が多い人だとは思いませんか?

完全に素人な人が、プロの不動産屋さんや専門のコンサルタントを頼る・雇うという行為は、その人に不足している「知識=センス」を補っている行為と言えそうです。

また水野さんが言うところの
・デザイナー=職人
・クリエイティブディレクター=センスのあるコンサルタント
という棲み分けの捉えも、なるほど!という感じです。

世の中で紹介されている成功事例においても、まずクリエイティブディレクターが企業を診断して、新しいコンセプト・大方針をつくり、デザイナーがクラフトマンシップを発揮して実物化・調整案をフィードバックする、という川上⇒川下の流れがあるように思います。

両者には立場の違いがありつつも、それぞれの行程で必要とされる基礎と専門の知識(ナレッジ)を、ちゃんと両者ともに持ち合わせている人物同士がコンビを組めば、それはそれは良いプロダクトに仕上がる、ということなんじゃないかと。(それゆえに、誰と誰が組むかで勝負の9割は決まる、といってしまっても過言ではない気もします)

もちろんこの考え方は、ビジネスに限らず、何かを作り出す行為、たとえば良い小説を書くためには過去に良い作品をたくさん読んだ経験、良い音楽を作り出すためには過去の良い音楽をたくさん吸収・蓄積していることが必須、という風に落とし直しても、合点がいきます。

たしか音楽家坂本龍一さんが「過去の音楽を知り尽くさないと、いま自分が作った音楽が本当にオリジナリティ性のあるものかどうか分からないよね〜」とどこかでおっしゃってましたが、まさに通ずるところだなあと思いました。

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さて、この本を読んで数年後に知ったことで、日本では Innnovation という英単語を「技術革新」という訳で広まってしまったのですが(つまりは新テクノロジーに主眼)、これは本質的には非常に片手落ちで、正しくは「新結合」と訳することが重要だった、という小話があります。

その続きとしては、 “だから日本では技術にばかり焦点が行ってしまい、SONYiPhoneを生み出せず、appleにはそれができた”と。

つまりは過去に取り合わせとされたことのない「知識と知識の新規合成」によって「イノベーティブな革新」は生まれ得るのであり、その合成の元とできる知識を領域横断的にできる限りたくさん持っている方が、全てのビジネスにおいて有利となるのは自明のことなのではないかと。

※ 上記の話は、企業比較の話でもあるので、複雑な組織論的な違いも大いにあったことだと思われます。


加えて、いまでこそクリエイティブ人材だ、クロスボーダー人材だ、なんて言葉がもて囃されていますが、そんなカタカナ言葉が少なかった昭和の時代(もちろんパソコンもGoogleも無い時代)に書かれた本を読んでいると、何でも知っている「教養のある人」がビジネスにプラスをもたらす人材として評価されていたようです。

つまりはいまで言う「センス」とは、昔で言われていた「教養」という言葉だったのかなーなんとも思います。人生、一生勉強ですね。

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クリエイティブ・マインドセット
 (トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー・2014年)

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法

クリエイティブ・マインドセット 想像力・好奇心・勇気が目覚める驚異の思考法

 


アップルやサムスン、P&Gなど名だたるグローバル企業の成長を支えてきたイノベーションとデザインのコンサルティング会社「IDEO」の創設者兄弟が、「人間はみなクリエイティブ」という信念と「デザイン思考」のノウハウを語った一冊。

原題は“Creative Confidence”。

なかなかに厚みのある本ですが、私の胸に刺さったポイントは次のとおりです。

・クリエイティブコンフィデンス=創造力に対する自信

・75%の人が「自分はクリエイティブ」と思っていない。

・「心理学者が誰かに創造性を教え込みたいと思うなら、クリエイティブになる決意を促し、そう決意する喜びを植えつけ、必ずやってくる難問に対してあらかじめ免疫を付けさせる方が上手くいく確率は高いだろう。クリエイティブになると決意したからといって、想像力が湧いてくるとはかぎらないが、そう決意しなければ湧いてこないことは確かだ。」何もしないで想像力が湧いてくることはまずない。意識的にクリエイティブになると決意する必要があるのだ。

・文化や環境は創造力に対する自信に大きな影響を及ぼす。だから似た考えを持つイノベーター軍団を周囲に築こう。オンラインでも個人的にでもかまわないから、参加できるグループを見つけよう。

・世界5カ国5000人を対象とした最近の調査によると、日本以外の国の回答者たちは、日本が世界でいちばんクリエイティブな国だと答えました。ところが日本人がもっともクリエイティブだと回答した割合は、なんと日本がいちばん低かったのです。

・クリエイティブ・コンフィデンスに欠かせない要素が2つあります。 斬新なアイデアを思いつく人間の生来の能力と、アイデアを行動に変える自信です。私のこれまでの経験からいっても、日本人は本当に本当にクリエイティブです。その創造性に「自信」さえプラスすれば、きっと創造力を解き放てるはずです。

・キーワードが「デザイン思考」です。デザイン思考とは、IDEOやdスクールで独創的なアイデアを生み出すために用いられている方法論であり、一言で言えば、製品開発や問題解決にデザイナー思考を取り入れる人間中心のアプローチ。人間を観察し、人間の話を聞き、人間に共感してニーズや問題を突き止め、アイデア創造、プロトタイピング、テストを行い、人間からフィードバックを得ながら、コンセプトを反復的に改良していく----つまりデザイン思考の中心にはいつも「人間」がいるわけです。

この本は2014年に出版されていますが、振り返ればこの頃を皮切りに「デザイン思考(Design Thinking)」という言葉を取り上げた本が日本で出版され始めていたのだなあ、と思います。

調べてみたら、デザインの専門誌の日経デザインでも2014年5月号で初めて「デザインシンキング」が特集として組まれていて、そのあと半年後の10月号に再び特集されているので、業界的にもメルクマールになっていた年度だったことが伺い知れます。

個人的にけっこう驚きだったのが著者のトムさんがかなりの親日家だったこと。

訳者あとがきのページでも紹介されていますが、奥さんは日本人、東京大学スタンフォード大学の d School を真似て創設した iスクール でエグゼクティブフェローを務め、仕事でも日本とのつながりが多々あるとか(IDEO tokyo のパートナーでいらっしゃいます)。

そんなトムさんが「日本人にはポテンシャルがある!」とおっしゃっているので、日本にはクリエイティブのポテンシャルが相当にあるのかなあと思わざるを得ません。

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ここからは私見にはなりますが、たしかに日本は、

①日本美術の変遷をたどるだけでも相当に厚みのあるコンテンツ数
 (縄文〜安土桃山〜大江戸〜漫画・アニメまで、さらに日本の美術館環境

②日本各地の伝統工芸からハイテク製造業までに評価されるクラフトマンシップ
 (日本スゴ〜イデスネ!!視察団で取り上げられている側面など)

③世界最強レベルの食材&シェフ&レストランが揃った外食環境
 (食も文化力を反映する領域と考えます、ミシュラン東京が世界最多星獲得都市

と、足元を見返すとかなりの特異点が揃っている気がします。

(その代わりに政策力と多様性受け入れ力に関しては他国よりも、がくんっと劣っているとは思います)

※この辺は後々に当ブログで深堀していきたいと思っているトピックスです。

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さて、話を本の方に戻しますと、水野さんの本はインプットに関する領域、トムさんの本はアウトプットに関する領域の感度をぐーんと高めてくれた貴重な2冊でした。

そして、私個人の中では下記のように腹落ちしています。

・センスがある ⇒ しっかりと知識を蓄えている

・クリエイティブである ⇒ アイデアを行動に変える自信を持っている
(=失敗や恥を恐れない免疫がある)

それでは今日はこのへんで!

 

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